歯科医療の問題(2014-01-21 08:54:39)
26年1月19日読売新聞に掲載「地球を読む」から
日本対がん協会会長 垣添忠雄先生の記事。
よくかんで食べるという習慣は、健康や長寿のためにすべての世代でじゅうようだ。
家族で囲む食卓は、子供が正しい食習慣を教わる場になるが、多く
の家庭でその機会が減った。
子供は軟らかくて食べやすいもの選びがちになり、かむ回数が減る。
その結果、顎が発達せず、歯並びが乱れて虫歯になりやすくなる。大人もよくかんで食べないと肥満になりやすい。
肥満が健康に良くないことは言うまでもない。
高齢者の健康維持にはかむ力は特に必要だ。残った歯が少ないほど、記憶力や運動能力が低くなるという調査もあり、認知症の危険も高まる。かむことで脳が活性化して意欲が向上するという研究もある。よくあった義歯でかむ力がかなり回復することは、歯科医師の常識だが、よくかんで食べる習慣を続けるには、口の中の健康を維持する口腔ケアが大切だ。しかし、日本では、まだその意識は薄い。定期的ケアを受けている人は3人に1人にとどまっている。
口の中の健康維持は、歯科医、歯科技工士、歯科衛生士の緊密な共同作業による。
義歯の作成には、歯科医と技工士の絶妙な連携が必須だが、わが国では技工士の待遇が良くないため、なり手が減り、遠からず大問題になると言われる。衛生士が口腔ケアを担当する患者を持ち、長期間見続ける国もあるが、わが国では、必ずしも専門職として衛生士のの能力が十分発揮されているとは言えない。
診療報酬制度上の問題もある。
歯科医が月に何回、口腔ケアの指導をしても、請求できるのは800円。こんな制度のため、歯科医の意識も、口腔ケアよりもインプラント治療など高額診療に向きがちになるとみる関係者も少なくない。
口腔疾患の増加は世界保健機構(WHO)も報告書を出して、以前から問題視している。
そんな中、米国では、2人に1人が半年に1回程度、歯科医院などで口腔ケアを受けているという調査がある。
私が知る米国人の多くも美しい歯をしている。歯が汚れているようだと社会的成功はおぼつかないという意識もあるようだ。意識の高い国はほかにもある。日本には80歳で20本、「8020」運動があるが、現状では「8013」だ。
これに対してスウェーデンは「8025」、つまり80歳で25本。日本との差は大きい。
”先進国”に共通するのは口腔ケアという予防重視の姿勢である。歯の健康を保ち、よくかんで食べるという身近な行為を生涯続けられれば、結果的に医療費の抑制に大きく貢献する。そのことに国民も気づくべきだろう。